「ぼろぼろのダチョウ」 椎名基樹 96年12月10日発行

  • これはもう駝鳥ぢやないぢやないか。人間よ、もう止せ、こんなことは。
  • 「聞いてないよ」は逆説的な肯定の言葉だった。そして、笑いを取るために進んで危険に身を投じたがる自分たちや、テレビ番組がつかざるをえない嘘など、すべてをパロディーにしてしまう言葉であった。この言葉には、どんなことも笑いとして成立させてしまう便利なパワーがあった。
  • 牛平は喉が渇くと、自分で冷蔵庫を開けて麦茶を飲んだ。そして、飲み干した後必ず、コップをダンッとテーブルの上に置き、カッと目を見開いて母親に向かって、「甘くないよっ!」と怒鳴るのだった。この地方にはまだ、麦茶に砂糖を入れる習慣が残っている。そして、牛平が飲んだものは、麦茶とほぼ同量の砂糖を煮込んだ、ドロドロのカラメルのような液体なのであった。牛平がいくら望んだところで、もうこれ以上甘くするすべはないのである。
  • 松葉杖で体を支えながら、司会のヒートたけしが全身で叫んだ。あまりに力んだためか、左目から義眼がポンッと飛び出た。
  • 白煙の中で、女の悲鳴が聞こえた。徐々に視界が晴れてくると、その中に蠢く黒い尻が見えた。その尻は独立した生き物のようにコントロール不能の意志を感じさせながら、ピストン運動を繰り返している。バイソンの下で、狂ったように泣き叫ぶのは、ゲストとして出演しているセクシーグループ「ヒップアップ・ガールズ」の1人だった。
  • 「死んでないよ〜〜!」
  • バキュームカーを盗んだった。作業中に盗んだから、クソは満タンだ。
  • 私の股間の毒マツタケは隆起し、今にも社会の窓を突き破らんと反社会の血をたぎらすのであった。
  • トンファは、ご存じの通りヌンチャクと並び、代表的な中国武術の武器の一つである。トンファは元々穀物を挽く石臼の、いわばハンドル部分であった。それを単独で用い、技を熟練することによって、トンファは武器として完成したのだ。生活のための農具が、武器として用いられたことを見ても、農民が密かに武装するためにトンファが編み出されたことは、容易に推測できるであろう。
  • 僕は、壁一面に貼られた「THE TECHNIQUE OF TONFA」の表を見据えた。
  • 僕は彼女を自由にできた。頭の中で自由にできた。何の助けも借りずに、ポスターを見つめるだけで、アイドルの彼女に決してしない格好をさせ、行動をさせ、言葉を喋らせることができた。僕は僕だけのために、彼女を自由に弄ぶことができた。
  • 32歳の童貞の血は、スポーツの汗で薄めるのがいい。もし、君が永遠を求めるならば、新鮮なまま腐るものを、美しいと感じるべきだ。