「何がおかしい」中島らも 06年08月25日発行

  • 日本の政治家の発言。吉田茂の「バカヤロウ」、池田勇人の「貧乏人は麦を喰え」、佐藤栄作の辞任表明報道での「テレビだけ残れ。新聞雑誌は出て行け」。
  • アメリカの大統領には常に二人のギャグ・メーカーがついていて、その日のプレスへのリップサービスや、夜のパーティーでのパーティー・ジョークを毎日作っている。
  • 人生相談で「お婆ちゃんが焼いた芋に味噌をつけて食べると死ぬと言われました。本当ですか」と聞かれ「本当です。日本人の死因はガンに続いて焼いた芋に味噌をつけて食べることが二位です」と答えた。
  • 和歌山は覚醒剤押収量日本一の県。
  • ビートたけしがかつて「三十五を過ぎたらギャグは出来ない」と言っていた。
  • 鬱になると「自殺念慮」が起こる。頭の右上が「死ね死ね」と言い、左上が「何を馬鹿なことを言っている」と反論する。それを真ん中で聞くことになる。
  • 1920年代のシュールレアリスム創始者アンドレ・ブルトンは「手術台の上のミシンと蝙蝠傘の出会い」のような到底巡り合いそうもない物と物との出会いを「デペイズマン」と名づけ、概念化した。それを中島らもは笑いに利用した。
  • テレビの黎明期に「番頭はんと丁稚どん」という大村崑芦屋雁之助のコメディがあり、大村崑が十円を貰うと「十円もろたー十円もろたー」と踊りまわる。これは完全にアホを馬鹿にした作品。
  • モンティ・パイソンのコントに「村のバカ」というのがある。バカは村人の前ではバカを演じるが、一人になるとデカルトの本を取り出して読み始める。月に一度の「バカ会議」に出席し、「今後のバカのあり方について」「インフレ時代とバカ」などの議題について意見を述べる。街にはバカ田大学があり「バカの歩き方(シリー・ウォーク)」「バカの歴史」などの授業が展開されている。バカは認可製の職業で、資格試験を突破しないといけない難しい技術者なのだ。
  • 昔の村落共同体には必ず一人は馬鹿がいた。馬鹿には馬鹿なりの「役割」がきちんとあり、(一)馬鹿なことをして人々を笑わせ、人心を和ませる。(ニ)子ども達とよく遊んでくれる。(三)力持ち(馬鹿力)なので重労働をこなしてくれる。現在は馬鹿や精神障害者はこの世から生滅したわけでは無く、所定の場所に収容され、隔離されているのである。
  • 精神分裂病になると、どこかで人の喋っている声がわんわんと頭の内部に響いてくる。罹患者はその度に頭を抱えて「だめだっ」と大声で叫んだ。
  • マルセル・パニョルという作家曰く、「笑いとは優者の劣者に対する優越的感情の爆発である」。これは一言で言えば「差別」ということになる。
  • コメディアンが自分のペルソナ(仮面)を脱ぐのはホテルの部屋と自分の家だけであるべきだ。彼らは差別されることで食っている。
  • 力道山の試合は中継終了のちょうど三分前になって突然力道山が怒り出し、空手チョップでケリをつける。何故最初から怒らないのか、テレビはやらせである。「朝まで生テレビ」でも番組が終わると出演者は別室に集まりビールを飲みながら和気藹々と談笑するのである。
  • インドには「スモーキング・クラブ」という日本で言えば居酒屋のような場所が有り、村の男たちが夕方集まってガンジャマリファナ)を楽しむ。ここは女人禁制になっている。
  • 現在のテレビでは畸形性による笑いは排除されていて、我々がそういった人たちを目にすることはない。メディアが畸形の人々、身障者をオミットすることは、彼らの存在を否定することである。
  • 昔は「代書屋」という職業があった。明治、大正には、無筆の人が多かったため、依頼を受けて履歴書などを代筆する商売である。
  • 古典落語のネタは二百本くらいあるが、そのほとんどは桂米朝笑福亭松鶴の二人が、戦後の何も無い状況から掘り起こし、再構築してきたもの。
  • 関西ではうどんとご飯を一緒に食べるのは普通で、うどん屋で「きつねとご飯」と言うと店の人が「はい、しのだにしまで一杯」と通す。「しのだ」というのは「しのだの森の狐」からきた隠語できつねうどんを指す。
  • 大阪の船場にある古いうどん屋「松葉家」の老主人は「水は右にかき混ぜるのと左にかき混ぜるのとでは味が違ってきます」と断言する。
  • ガンジー石原は「米ものプラス米」が好きで、「親子丼ライス」「かつ丼ライス」「牛丼ライス」「ライスカレーライス」など様々なバリエーションがあるという。
  • 日本でマジックマッシュルームがまだ合法だった頃に、京都にマジックマッシュルームの「自動販売機」が置かれてニュースになった。
  • 日本のテレビの初期に「鉄人28号」の実写作品があった。胴はドラム缶、腕はバキューム・カーのホースで、戦う時はホースの腕を振って「ペチン、ペチン」と殴りあう。
  • テレビ局には放送禁止用語の事例集がある。「○年○月○日NHKのアナウンサーが支那ソバという言葉を口にしたため、局上部に反省文を書かされた。現在、存在しない国名を放送に乗せたためである」といった事例が何百例にもわたって収められている。
  • 「乞食」という用語禁止については行政側からのエクスキューズがある。「日本という国は世界屈指の福祉国家なので、失業者、病者、無産者、生活困窮者などには国からの保護が与えられている。従って日本には乞食は存在しない。存在しない者に対して乞食という言葉が在るということは、あたかもそういう者が存在するかのような錯覚を人に与える。よって乞食は公共の場で口にすることはこれを良しとしない」。
  • 奥崎謙三政見放送で「軽度のキチガイである私は、軽度のキチガイであるために、重度のキチガイである国家、国法、政治家の企てを知ることが出来たのであります」。
  • 化石は神様が土の中で創ったという説がある。
  • ドイツの学者ヨハン・ベリンガーは化石は神様が創った、聖書は正しいという証拠にヘブライ文字の入った化石を出した。だが、それは学生が作って埋めたものだった。自分の名前が書かれているのを発見したベリンガーは、残った一生を自分の本を買い集めて焼却処分するのに費やした。
  • キリスト教徒は化石を絶対に認めない。世界は6000年前に神様によって六日間で創造されたという。だから、6000年より向こうの物質があるのは絶対に認めない。そこでコスという折衷派が出てきて、確かに世界は6000年前に神様の手によって六日間で創造されたが、一方に何十億年前の化石もある。これはどういうことかというと、世界は神様の心の中でずっと進化してきて、それが6000年前に突如物質化した。だから、化石や木の年輪、アダムのおへそなど全部その瞬間に物質化したんだ、と主張した。
  • 立川談志は「やっぱり映画と音楽は楽しくなくちゃいけない」と言い、記者が「落語もそうですね」と言うと談志は「いや、違う。落語というものは人間の業をあざ笑うもので、決して楽しいものじゃない」と言った。