「ドコカの国にようこそ!」大海赫 75年07月10日発行

  • これほど醜くて、汚くて、恐ろしい顔をした人形を見たことがありまえんでした。目の玉は飛び出し、鼻は潰れていました。捲れあがった青い上唇の下から、糸切り歯の白が、ひっそりと覗いていました。額の髪の毛は抜け落ち、頬の肉は縮れていました。
  • さいわいみんな知らない子どもたちばかりでした。おかしなことに、七人ともまるで毛虫みたいなヒゲを生やしていました。付け髭でした。
  • 今日のサービス品。紙ナプキン一枚四百五十円。「紙ナプキン、一枚」
  • 通行人が、心配そうに大学生を取り囲みました。救急車が着きました。大学生は、その白い箱に飲まれて、連れ去れました。
  • ほかほかの焼き芋が五つも、フトシにおしつけられました。「飢えたガキの面なんぞ、オラ見たくもねえ」
  • 「僕の国ではね、こうやって嘘の月見草の花を川に流すと、その年咲いたのよりもっと美しくて、もっとたくさんの月見草になって戻ってくるっていう言い伝えがあるんだよ」
  • 庭に置いてある赤い付け鼻をつけ、枯れ枝を両手に持って、日の沈むまでさし上げていよ。絶対に動いても、口をきいてもなりませぬぞ。「こんなところに木が生えている!」「僕、木の葉っぱだよ」「僕は木の実さ」
  • 「木なら切ってやる」ついにカンヌキはノコギリの刃をフトシのスネに当てました。
  • 部屋の壁には、スイッチ、ボタン、レバー、計器などでビッシリと埋まっていました。女の子は、パイプオルガンのキーよりたくさんあるボタンを、いちいち指差して説明しました。「このボタンを押せば、ベッドは私たちごと、普通の人には考えられないくらい大きくなるの。このボタンを押せば、反対にベッドは普通の人の目に見えないほど小さくなるの。このボタンを押せば、ベッドは地上を離れるの。このボタンを押せば、ベッドは光より早く飛ぶの。このボタンを押せば、二階にあるロケット砲が、一度に発射するの。このボタンを押せば、外からのお客さんを迎えたり、私たちが外の世界に降りたりするための縄ばしごが降りるの。このボタンを押せば……」
  • ちょうど赤ん坊が寝かせられるくらいの、小さい、銀色の二段式ベッドが、公園の真ん中に置かれているのでした。傍には誰一人いませんでした。しかも、そのベッドは、お母さんが驚いて近づくよりも早く、どんどん小さくなっていきます。子猫のベッドぐらいに……。石鹸ぐらいに……。