「アシモフの雑学コレクション」アイザック・アシモフ 86年07月25日発行

  • 地球の自転は10万年ごとに一秒長くなる。地球の歴史の何十億年で、何時間も長くなった。
  • 地球生命はたぶん、気体酸素のない環境で発生した。現在も、酸素で死ぬ微生物がいる。
  • 紀元前435年、ギリシャの哲学者アナクサゴラスは、太陽は直径150キロほどの、赤熱した岩との説を唱えた。そのため、世を惑わすと、アテネから追放された。
  • 土製の環は、十四年ごとに観測不能になる。地球から、薄い輪を真横から見る状態になるため。
  • ギリシャ天文学者アリスタルコスは、紀元前290年ごろ、太陽は太陽系の中心であると主張した。誰も相手にしなかったし、その書物も残っていない。今に残るアルキメデスの本の中に、珍説として紹介されている。
  • 1803年4月26日、フランスの町レーグルに無数の隕石が落下するまで、隕石は「天からの石」と迷信とされていた。
  • 1400年代の初期、世界で最も優れた天文学者は、モンゴルの王子だった。テムジン(ジンギスカン)の孫のペグ。サマルカンド天文台を作り、正確な星図と惑星運行表を作成した。ヨーロッパには知られなかった。1665年、その著書が訳された時は、望遠鏡の発明後で、価値あるものではなくなっていた。
  • 昔近東で戦争が始まりかけた時、日食となった。おかげで、平和が戻った。近代の天文学者は、それを紀元前585年5月28日のこととし、さらには時刻まで計算した。
  • フランスのある村で、空から落下してきたものを、人々は悪魔と思い込んだ。農具でぶっ叩き、音を出しながら潰れた死体を、馬に引かせてボロボロにした。正体はゴムを縫った絹布に、水素を詰めた気球。初期のもので、1783年のことだった。
  • 地球の全歴史の大部分の期間、北極と南極に氷がなかった。
  • 人間は水にとけていないと、匂いも味もわからない。舌が乾いていると、甘さを感じない。鼻が乾いていると、花の香りを感じない。匂いは、空気中に漂っていないと、感じられない。
  • 1873年アメリカの馬の四分の一が、ビールス性の伝染病で死んだ。合衆国の産業と生活は、麻痺状態に陥った。
  • 金は最も量の少ない金属の仲間だが、最もはじめに発見された。
  • 海中には約900トンの金がある。有史以来採掘された金の、百八十倍である。しかし、取り出そうとしても、採算にあわない。
  • 地球上に存在した全ての生物の、99パーセントが、既に絶滅している。
  • 三万年前、原因は不明だが、アメリカから馬が生滅した。西部劇の馬は、ヨーロッパ人が輸入した、中近東の馬の子孫である。
  • カモノハシは当初、学者たちを悩ませた。カワウソの毛皮、ビーバーの尾、アヒルのクチバシと足、闘鶏のようなケヅメを持ち、卵を産むが哺乳類で、母乳は乳でなく腹の毛穴から出る。一億五千年程前に、爬虫類から哺乳類になる時、そのままで停止し、まさに生きた化石である。
  • 卵からかえったカゲロウは、幼虫として水中で一年から三年程を過ごす。しかし、成虫となると、一日しか生きられない。その一日の間に、二回の脱皮をし、交尾と産卵をする。成虫は口が発達してないので、何も食べられない。
  • 骨髄炎の治療に、ウジが使われた。南北戦争中、偶然に発見された。ウジは傷口の死んだ組織を食べ、有用な成分を分泌する。そのため、無菌のウジが飼育された。使用されなくなったのは、分析の結果、効果はウジの尿とわかり、同じ物質が安く合成できるようになったため。
  • ラクダとヒョウの混血と思い、ヨーロッパでそんな意味の名称をつけた動物がいる。今ではキリン(ジラフ)と呼ばれている。
  • 古代エジプトではマントヒヒはトート神の部下と思われ、死ぬとミイラにされた。
  • 哺乳類では、大型の方が長く生きる。その例外が人間。理由は不明である。医学の進歩だけではないようだ。古代に百年を生きた人の記録はあるが、現在の哺乳類でそんな例はない。
  • アメリカの霊長類研究所で、十七組のゴリラの母子を観察した。母と子の二匹だけを檻に入れると、母ゴリラは必ず子を虐待する。グループで生活させると、子に母親らしい愛情を示す。
  • コアラはユーカリの木だけで生きている。他は、何もいらない。水さえも。
  • 魚の中には、死ぬ時に鮮やかに変色するのがいる。ボラは、死ぬと赤、気、緑の光る斑点が出る。ローマ帝国の豪華な宴会では、客の前で水槽の水を抜き、その変色を見物させた。その後は調理されて、出される。
  • チョウチンアンコウのメスは、オスの六倍もある。オスはメスの頭の上にくっつき、一生そのまま。やがて消火器や循環器系は合体し、オスは生殖器ヒレだけになる。
  • 白い血液の魚が、南極に一種だけいる。ヘモグロビンでなく、なんで酸素を細胞に運んでいるのか、未解明である。
  • 第一次大戦中、エッフェル塔でオウムが飼われた。鋭い聴覚で、人間よりずっと早く、飛行機の来襲を知らせた。
  • ハトのメスは、一羽だけだと、産卵しない。他のハトを見てないと、それが機能しないのだ。それは、鏡に写る自分の姿でもいい。
  • 昔の北欧の船で、バイキングたちは、鳥の帰巣本能を利用した。渡りガラスを何羽もつんでいき、一羽ずつ放つ。戻っていった方角が、出発地とわかる。
  • 西暦982年、ノルマン人エリックが、新しい陸地を発見した。移住したくなるようにと、緑の地、グリーンランドと名づけた。まもなく、開拓者を乗せた二十五隻が、そこを目指した。氷と雪しかないのに。
  • 世界最初の経済の中心地となったオランダのアムステルダムでは、十七世紀にチューリップの取引が盛んだった。ある収集家は、新品種の球根一つに、チーズ五百キロ、牛四頭、豚八頭、羊十二頭、ベッド一つ、衣装一そろいを払った。最初の好況と不況(バブル)は、砂糖でも、石油でも、香辛料でも無く、チューリップによって起こった。1637年、チューリップの値が下がり、オランダ経済は大打撃を受けた。
  • ぜひ買いたい品を値切る時は、サングラスをかけるといい。関心があるものを見る時は、瞳孔が拡大する。それに気づかれたら、話を進めにくい。
  • 恐怖は、心理的なものとは限らない。狂犬病ビールスにやられると、水を見たり、水の音だけで震えてしまう。古代ギリシャ人は、水への病的な恐怖と思い、恐水病と呼んだ。
  • ケチャップはかつて、薬品として特許を取っていた。1830年代、アメリカで「ドクター・マイルズのトマト調合エキス」として、人気があった。
  • 看護の女神ナイチンゲールが負傷兵たちの奉仕したのは、一生のうちに五年間だけ。クリミヤ戦争の時で、そこで熱病にかかって体力が無くなり、後の五十年間は病人生活だった。
  • タバコはかつて、万病の薬とされていた。頭痛、歯痛、関節炎、腹痛、傷、口臭などに良い。煎じて飲んだり、錠剤にもなった。スペインの医師モナルデスは、1877年に出した本「新大陸での新発見」の中で、そう書いた。その説は二世紀以上も信じられた。
  • 十五世紀から十七世紀ごろにかけて、イギリスでは、病気には赤い色が効果ありと思われていた。熱が出ると、赤いガウンを着た。
  • コロンブスが新大陸を発見して戻った時、梅毒という伝染病を持ち帰った。部下の船員たちが感染していて、1493年にバルセロナに始まり、ヨーロッパ各地へと広まった。
  • 脳のある部分に電気的刺激を与えると、忘れていた昔の記憶が蘇ることがある。
  • メリー・マロンという女性は、腸チフス・メリーとして有名。ニューヨークでの流行のうち七回は、彼女が発生源とされている。警官が逮捕したが、治療を拒んだ。1907年、正式に拘留され、三年後、食品や調理に関係しないとの条件で、釈放された。しかし、1915年に、彼女の勤める病院で腸チフスが発生。友人のためにゼリーを作ったのが原因で、逮捕された。そして、二十三年間、死ぬまで隔離されたままだった。発病しない保菌者という、珍しい例。
  • イラク地方に遥か昔、シュメール文明が存在した。現代人がそれを知ったのは、百年程前。祭司で支配者のグデアの宮殿が発見されてからである。紀元前五千年前から四千年にかけて、栄えた。車輪つきの輸送機関、天文学、数学、煉瓦造りの大きな建物、書物、商業活動などがあった。やがて消えてしまったが、滅亡でも、敗戦によってでもない。文明が衰え、自分を高級な種族と思わなくなったためらしい。紀元前千九百年には、シュメール人はいなくなってしまった。
  • 紀元前一五二五年、エジプト王トトメス一世が、ユーフラテス川の上流のシリアに侵攻した。兵士たちが驚いたのは、空から落ちる川と、川の水が逆流していること。雲ひとつない地方で育ったため、水は川しか知らず、雨はそうとしか呼びようがなかった。また、ナイル川は北に流れるので、川の下流は北と同じ意味だったのだ。
  • スパルタでは、生まれた子に欠陥があると、捨てられて死んだ。健康で成長し、七歳になると家庭から離され、兵舎での生活となる。いわゆるスパルタ教育である。
  • 壮大なアルテミスの神殿は、紀元前三五六年、放火によって破壊された。犯人を問いつめると、自分の名を歴史に残したかったから。処刑し、その名を記録から消すよう指示された。しかし、ヘラストラツスという名は、現代まで伝わっている。
  • 十八世紀のベニスは、乱れた社会だった。夜も昼もギャンブルがなされた。ある神父は、ルーレットでみぐるみ剥され、裸で修道院に帰った。尼僧たちは胸もあらわな服で、真珠を飾り、来訪中のローマ法王からの大使を、争って誘惑した。貴婦人は、愛人をかねた召使を持たないと、恥とされた。
  • 十八世紀のアイルランドでは、紳士の間で決闘が流行した。たいていのホテルには、持参し忘れた人のためにと、決闘用の拳銃が備え付けられていた。
  • 原爆関係が極秘扱いだった時、カートミルはかなり正確に描写し、公表した。一九四三年三月号のSF誌「アスタウンディング」に。誰も本気にしなかった。政府の公式発表は、その一年半後。
  • 天文学者たちは、恒星は太陽であり、多くは惑星系を持ち、中には生物がいるのもあるだろうと考えている。それと同じ事を、ドイツの大司教クザーヌスが一九五〇年に主張したが、誰もが聞き流した。
  • 古代ギリシャの地理学者ピテウスは紀元前三世紀ごろ、大西洋に航海し、海の潮汐は月による影響と気づいた。二千年たって、ニュートンがそれを証明した。それまでは、誰も信じなかった。潮汐は一日に二回、うち一回は月が空にない時に起こるのだから。
  • 1889年ごろのペルシャの王は、扱いにくい国賓として有名だった。ロンドンで侯爵夫人を金で口説いた。パーティの席でイギリスの皇太子に、その辺の女性はあなたの妻たちか、それなら全部取り替えるべきだと勧めた。
  • マルコ・ポーロの見聞録によると、元の世祖フビライの宮殿には、五千人の占星師が住んでいた。天気予報という、危険な仕事も含まれる。的中しなかったら、命を失う。
  • イギリスには会員五百人ほどの、南北戦争クラブがあり、週末に集まって、著名な戦闘を再現して楽しむ。
  • ロンドンから少し北西にある町、ハイウイコムでは、何世紀も前から「体重の儀式」が続けられている。五月の始め、町長、その夫人、副町長、その夫人、役場の事務長、町会議員たちは、体重を測定される。地位を利用し、太ったかどうかを調べるのだ。十七世紀の清教徒の力で中絶したが、十九世紀に復活し、現在に至っている。三脚からバネ秤が吊り下げられ、その下についている椅子にかける。見物人たちは騎手秤とも呼ぶ。
  • ノアの箱舟の話は、聖書以前のシュメール人叙事詩の中に出てくる。大洪水に備えて船を作れとのお告げを受けた男。洪水の後、鳥を放って陸地を探す部分も同じである。
  • フランスの哲学者デカルトは、太陽を中心とするコペルニクス説を支持する本を書き始めてていた。しかし、同じことをやったガリレオが激しい非難を受けたのを知って、執筆を中断した。
  • ユダヤ人の大量処刑の責任者アイヒマンは、イスラエルでの法廷で、ヒトラーの「我が闘争」を読んでないと断言した。ナチの幹部たちも、同様だった。皆、退屈なものと敬遠したのだ。
  • アンデルセンの童話は出版された時の批評は散々だった。「子ども向きの話でない」とか「成長過程で、好ましくないもの」など。
  • ダ・ヴィンチはこの上ない才能の主だったが、彼を知る人々は「この世で最高の美男子」だったと語っている。
  • 描いた絵が気に入らず、それを消しながらピカソは呟いた。「十万フランなのだがな」
  • 良い題材がないのでと、言い訳をする作曲家をからかってか「セビリヤの理髪師」などで知られるロッシーニは言った。「洗濯物のリストを見せてくれ。それに曲をつけてやるぞ」
  • 1954年のインディアナ州では、ボクサーやレスラーは、試合前に共産主義者でないと宣誓しないと、出場できなかった。
  • メアリー・ビッグフォードは、少女の役で大当たりした。可愛らしい上に、身長が一メートル半。それをさらに強調するため、セットや品物は、全て現実の1.3倍に作られて、撮影された。
  • ビョートル大帝は妻の浮気の相手を処刑し、その頭をアルコール付けにし、瓶に入れた。妻はそれを寝室に置かなければならなかった。
  • エッフェル塔は1889年に完成。建設者エッフェルは、その上部に密会用の個室を作った。今も見物できる。
  • ブルガリア地方の古代トラキア人は、一夫多妻制だった。夫が死ぬと、お互い、自分が最も愛されたと主張した。その決定がなされると、殺されて同じ墓に埋葬される。
  • 古代ギリシャでは、女性は結婚した日から年齢を数え始める